石油、石炭、天然ガスなどの化石燃料を使用すると二酸化炭素(CO2)が発生することは知られています。そのCO2が地球温暖化の原因になっていることから、世界は今、CO2削減に全力で努力しています。
ところで、その化石燃料の中でも、とりわけ悪者扱いされるのが石炭です。なぜ石炭は他の石油や天然ガスなどに比べて、非難の的になってしまうのでしょうか。ここではそんな素朴な疑問にお答えします。
日本に贈られた「化石賞」という不名誉
2021年、イギリスのグラスゴーで開催されたCOP26(第26回国連気候変動枠組条約締約国会議)で、日本は「化石賞」という不名誉な賞を受賞しました。この賞はCOPの開催期間中、気候変動対策に対し消極的な姿勢を示している国や地域などに、皮肉を込めて贈られる賞です。
受賞の理由は、首脳級会合に登壇した岸田総理が、「火力発電のゼロ・エミッション化」を前提としながらも、石炭などを用いた火力発電の継続を表明したことでした。
現在、石炭火力の廃止は世界の潮流となっているにもかかわらず、日本では今も石炭火力による発電施設に頼らざるを得ない状況が続いています。
「炭素集約度」がもっとも高い石炭
化石燃料がCO2の主な排出源であることは知られています。ではなぜ化石燃料の中で、石炭ばかりが悪者になるでしょうか。その理由は、一定のエネルギーを得るうえで、排出されるCO2量がもっとも多いからです。
石炭はあらゆる燃料の中でもっとも「炭素集約度」の高く、しかもNox(窒素酸化物)やSox(硫黄酸化物)などの有害物質も排出するため、大気汚染をもたらします。ですから石炭を使わないですむなら使いたくないのは日本に限らず、どの国も同じ。それでも使用されるのは、安価で手に入るからです。
しかも石油や天然ガスは、採れる場所が世界の中でも限られていますが、石炭の採れる場所は広い地域に分布しており、採掘できる期間も長いため調達しやすく、価格も安定しています。つまり石炭は経済性に優れているため、途上国では石炭火力の発電施設が多く使われているのです。
こうした国々では石炭の使用をやめることは現状、不可能なのです。そのため、CO2排出量の少ない石炭の開発や、石炭から排出されたCO2を処理する技術の開発が進められています。
ネガティブ・エミッション技術に期待
国の財政事情によって、化石燃料の使用を簡単に止められない国もあります。そのため以前から研究開発が進められてきたのが、ネガティブ・エミッション技術です。ネガティブ・エミッション技術とは、大気中に蓄積している温室効果ガスを回収・除去する技術の総称で、ネットゼロ(大気中に排出される温室効果ガスと大気中から除去される温室効果ガスが同量で、バランスが取れている状況)を実現させるための効果的な手法の1つだと考えられています。
たとえば排出されたCO2を集めて地中に貯留して、火力発電のCO2排出量をおさえる(低炭素化)技術が開発されているのです。その代表的なものが、「CCS(Carbon dioxide Capture and Storage)」と「CCUS(Carbon dioxide Capture, Utilization and Storage)」です。
「CCS」は、発電所や化学工場などから排出されたCO2を、ほかの気体から分離して集め、地中深くに貯留・圧入するというもの。他方、「CCUS」は、分離・貯留したCO2を利用しようというものです。
アメリカでは、CO2を古い油田に注入することで、油田に残った原油を圧力で押し出しつつ、CO2を地中に貯留するというCCUSが行われています。(参照:知っておきたいエネルギーの基礎用語 ~CO2を集めて埋めて役立てる「CCUS」〈資源エネルギー庁〉)
日本では三菱重工がLNG(液化天然ガス)の発電プラントで、大規模なCO2回収装置の設計を手がけており、ネガティブ・エミッション技術の研究開発が現在も行われています。(参照:三菱重工、CO2回収装置の設計受注 効率最大5割改善〈日経GX〉)
日本の再エネ率は2割弱
石炭や石油などの化石燃料を使うことなく、太陽光や風力、水力、バイオ燃料などの再生エネルギーを活用することで、CO2削減に寄与できるのが理想ですが、日本では再エネへのシフトが遅れているため、再エネが占める割合は、いまだ全体の18%(2019年度)に過ぎません。早期に再エネ比率を向上させることが今後の課題なのです。
文・構成/ 大島七々三