2023年9月19日(火)から2023年10月6日(金)までヘルシンキ大学のメインビルディングで、学生たちは、フィンランド政府の予定している予算削減案に物申すべく、座り込みでの抗議活動を行いました。今年フィンランド政府が発表した予算案では、学生の家賃補助の削減、海外からの留学生への学費の導入などが挙げられており、それらは学生らの権利を侵害しうるとの主張のもと、学生らは抗議を始めました。
教育先進国として知られるフィンランド
デジタルツールの活用、少人数学習の徹底など革新的なアプローチのもと、国際的な学力テストPISAで世界1位に輝いた経歴もあるなど、教育先進国として知られるフィンランド。すべての人に質の高い教育機会を平等に与えることを目標とし、就学前教育から高等教育までフィンランド人にはすべて無料で提供されています。
そしてこの教育は税金によって賄われています。フィンランドは世界的に見て高税率な国として知られています。実際に、日常的な消費税を見てみると、一般消費税は24%、食品に関わる消費税は14%、書籍、薬、スポーツサービス、宿泊サービス、公共運輸サービスにおいては消費税10%とのことです。ただし、高い税金をおさめることで、フィンランド国民は高質な教育・福祉・医療のサポートを無料/低額で享受することができるのです。
参照:Taxation in Finland, Expat Finland
フィンランド政府が予定する予算削減
上のように『高福祉高負担(高福祉高税)』のポリシーのもと、フィンランドは社会保障を充実させています。国家予算のうち、10.23%(2020年)を教育分野に充て、無償教育等を実現しています。
さて、フィンランド政府は今年度様々な分野における予算削減を予定していますが、今回学生から非難を浴びているのは主に次の2点、①低所得世帯の学生の家賃補助の削減、②留学生らへの学費の導入です。
①低所得世帯の学生への家賃補助の削減
現在フィンランドでは、フィンランド人の学生に対し、学費免除(こちらは全学生対象)だけでなく、家賃補助など様々な手厚いサポートが与えられています。
しかし、今年度発表された政府の予算削減案では、低所得世帯の学生への家賃補助金が削減の対象として挙げられています。実際に低所得世帯の学生の家賃補助を削減した場合、1億2000万〜1億5000万€(約192億~250億円)ほどの影響が出ることが想定されています。また、リーズナブルな価格の学生用住居の供給にも影響が出ると危惧されており、現在補助をうけている低所得世帯の学生以外の学生にも影響が出うると考えられています。
②留学生らへの学費の導入
現在、フィンランド政府はEU/EEA以外の国々からの留学生に対して学費を導入することを検討しています。実際、現行制度ではフィンランド国民、EU/EEA国籍の生徒はフィンランドの教育を無償で受けることができますが、すでに2017年から非EU/EEAの国々からの留学生には学費が課されています。ただし、永住許可または期間限定の在留許可を持つ学生やEUブルーカード(滞在許可証の一種)を所持する学生は学費を免除されたり、フィンランド語またはスウェーデン語(フィンランドの公用語)で授業を受ける場合は、留学生であっても無償で教育を受けることができるなど、さまざまな例外が存在します。
しかし、今回の予算削減提案においては、現在学費が免除されている留学生に対しても学費を課す計画が立てられており、これにより留学生にかかる負担が増大する恐れがあります。
参照:SYL’s Message to the Government Budget Session: Student Housing Allowance Must Not Be Cut Twice, SYL
参照:Finland wants foreign students to cover full tuition costs, yle
学生たちの主張
①家賃補助削減案に対して
家賃補助が削減されることで、学生の自由に学ぶ権利が蝕まれると主張しています。また、そのような経済的なサポートの削減は、経済的余裕の不足、学びにおけるストレス、将来の就労不安など様々な問題を既に抱えている学生にさらなる負荷、ゆえに学びに多大な影響を与えうるとして学生らは反対しています。
➁留学生への学費完全導入に対して
“We want to draw attention to the position of international students. The current government is undermining the position of international students by pursuing a racist immigration policy”
Isla Arnivaara, a student of social policy, told Yle.(ヘルシンキ大学の学生へのインタビューにおける言葉)
現政府の“レイシズム・ポリシー”によって、留学生の居場所が蝕まれていると主張しており、もっと留学生に寄り添うことを政府に強く求めています。
参照:Helsinki University students stage sit-in against government budget cuts, yle
座り込み抗議運動の様子
メインビルディングでは、数多くの学生らが寝袋やテントなどを持ち込み、座り込み運動をしています。座り込み運動は9月19日(火)から10月6日(金)まで2週間以上に及び行われました。
学生自ら政府に働きかける姿勢~質の高い教育をみんなに~
座り込み抗議を大学にて行うことの是非はともかく、政府・政治への関心の高さ、そして自分たち学生(若者)が政府に直接訴えかけ、政治を変えていこうとする、あるいは質の高い教育を受けられるよう働きかける積極的な姿勢が伺えますね。
実際にフィンランド人の友人らと会話していると、日常的に政治に関して意見交換をする様子がよく見受けられます。そういった日常的に政治へ関心をもち、政治を自分事として捉えているフィンランドの学生だからこそ、これほどの規模の学生運動が行われていたのでしょう。
私たち日本人も、彼らの姿勢から学べることは多いのではないでしょうか。
文・構成・写真/SD学生編集部(M.M 在フィンランド)