本日は、日本映画製作チームと世界の自然科学研究者が連携した一大プロジェクト「YOIHI PROJECT 」の第2弾、映画『プロミスト・ランド』のトークイベントのレポートをお届けしたいと思います!
<映画『プロミスト・ランド』>
作家・飯嶋和一が1983年に発表した小説「プロミスト・ランド」を映画化し、東北地方を舞台に禁じられた熊狩りに挑む2人の若者を描いたドラマ。
YOIHI PROJECT劇場映画作品第2弾。自然と共に生きるマタギの文化をテーマに、消えつつある伝統文化の継承を2人の若者の物語を通して描いています。
脚本・監督:飯島将史
原作:飯嶋和一「プロミスト・ランド」(小学館文庫「汝ふたたび故郷へ帰れず」収載)
製作:FANTASIA Inc. / YOIHI PROJECT
制作プロダクション:ACCA /スタジオブルー
配給:マジックアワー/リトルモア ©️飯嶋和一/小学館/FANTASIA
6月29日(土) ユーロスペースほか全国順次公開
https://www.promisedland-movie.jp/
プロジェクトの概要
気鋭の日本映画製作チームと世界の自然科学研究者が連携して、様々な時代の「良い日」に生きる人間の物語を「映画」で伝えていく〈YOIHI PROJECT〉と、100年後の地球のために行動を起こせる科学者たち「One Earth Guardians 地球医」の育成を目指す、東京大学〈One Earth Guardians育成プログラム〉の共同企画です。
YOIHI PROJECT 第2弾映画『プロミスト・ランド』の撮影地である山形県鶴岡市大鳥地域は、かつて鉱山で栄えた歴史を持ち、日本でも数少ない「マタギ(※)文化」が継承されている土地です。2024年4月、One Earth Guardiansの学生4名がその地を訪れ、雪解け時期に解禁される熊撃ちへの同行や地元の人びととの交流を通じて、過疎化が進む集落の現状を知るとともに、地域に根づく食文化、自然と向き合う生活、その土地で暮らす人びとの生き方に触れました。
雪山に入って熊を探し、撃ち、その生命をいただく –自らの目で見、耳で聞き、肌で触れた学生たちは何を持ち帰ったのか…。
本イベントでは、現地のマタギである田口比呂貴氏を迎え、映画『プロミスト・ランド』の飯島将史監督を交えて、大鳥地域を訪れた学生たちがその鮮明な体験を振り返ります。
後半では、YOIHI PROJECT代表の原田満生氏と、One Earth Guardians育成プログラムの発起人の一人である東京大学 五十嵐圭日子教授の特別対談を行い、自然科学と映画が組み合わさることで生まれるさまざまな可能性について語り合います。
※マタギ・・・東北地方・北海道から北関東、甲信越地方にかけての山間部・山岳地帯で、集団で伝統的な方法を用い狩猟を行う人びと
■ YOIHI PROJECT
美術監督・原田満生が発起人となり、気鋭の日本映画製作チームと世界の自然科学研究者が連携して、様々な『良い日』に生きる人々の物語を「映画」で伝えるプロジェクト。劇場映画第1弾『せかいのおきく』は江戸時代の<循環型社会>をテーマにしながら、<人と人のぬくもり>と<いのちの巡り>を瑞々しく描いた至高の青春エンタテインメントとして高い評価を受け、第78回毎日映画コンクール 日本映画大賞など数々の映画賞を受賞。
https://yoihi-project.com/
■ 東京大学 One Earth Guardians育成プログラム
2017年より東京大学大学院農学生命科学研究科にて開始。“100年後も地球上のあらゆるものと共生しながら生きていける世界”を実現するべく、さまざまなステークホルダーを巻き込みながら課題解決のために行動し、新しい価値を創造できる科学者たち「One Earth Guardians=地球医」の育成を目指す教育・研究プログラム。
https://www.one-earth-g.a.u-tokyo.ac.jp/
2022年からは、一般財団法人トヨタ・モビリティ基金と共同で「Good Life on Earthプログラム」も実施。「”好き”を伸ばして地球を救う 共に学び合うフィールド」として、高校生・大学1-2年生を対象に、自身が夢中になれる“何か”を切り口に地球の未来につながるアイデアの実現を支援。
https://www.one-earth-g.a.u-tokyo.ac.jp/gle/
One Earth Guardians育成プログラム発起人のひとりである五十嵐圭日子教授はYOIHI PROJECTのプロジェクト・フェローも務め、両者のコラボレーションによる教育や発信を行っている。
オープニング
まずは、映画『プロミスト・ランド』の紹介ムービーが上映されます。
木の伝統を受け継ぐ山間の町を舞台とし、禁じられた熊撃ちにたった2人で挑む若者たちを描いた本作。
紹介ムービーは映画の見どころや魅力が詰まっており、公開が待ちきれない内容でした!
パート1|パネルディスカッション「体験を通じて感じた『人と自然との共生』」
ムービー上映後、映画『プロミスト・ランド』の飯島将史監督、現地のマタギである田口比呂貴さんが登壇し、挨拶を行いました。
飯島 将史 /映画『プロミスト・ランド』脚本・監督
1984年、東京都出身。日本映画学校(現日本映画大学)で緒方明監督に師事。卒業後、フリーの助監督として映画・テレビドラマ作品に参加。阪本順治監督の映画作品に多く携わっている。マタギの世界を描いた『プロミスト・ランド』に先立って、山形県大鳥集落のマタギの人々を追ったドキュメンタリー映画『MATAGI-マタギ-』(23)の監督を務める。 日本映画界の硬派な監督陣の血筋を継承する次世代の監督として、本作品で商業映画デビューを飾る。
「大鳥は、映画を撮る前から2年ほど定期的に通い、映画の制作に協力していただいた地域です。そこに学生さんを連れて行き、熊撃ちと集落の人たちの生活を体験するような企画を考えました。
今は情報を簡単に得ることができますが、自分たちが体験したり、直接会って話したりすることで、感じることや発見できることがたくさんあると思います。そういう経験は、映画を作るうえでも非常に大切なことだと感じています。」
田口 比呂貴 /猟師(山形県鶴岡市大鳥地域在住)、映画『プロミスト・ランド』マタギ監修
1986年、山形県村山市生まれ/大阪府豊中市育ち。法政大学経済学部を2011年3月に卒業。電子部品メーカーの営業を2年間勤めたのち、2013年5月~地域おこし協力隊として鶴岡市大鳥に移住。協力隊の任期終了後も大鳥地域に住み、フリーで活動中。山小屋管理や自然体験学習のサポート、除雪車補助員、大鳥音楽祭事務局など、地域の仕事を幾つか担いながら個人で地域の民俗調査、狩猟・採集、ブログ、イベント等を行っている。2016年4月には大鳥地域の民俗誌である『大鳥の輪郭』を刊行。累計400部を販売。
「大鳥には少し切り立った山があり、山菜やキノコが採れ、昔は炭焼きが行われていました。その名残で現在も狩猟文化が残っています。私は10年前に大鳥に移住し、ここに住むなら鉄砲をやらなければならないと思い、鉄砲を持つことになりました。
10年ほどマタギとして活動していくなかで、飯島監督の目に留まり、一緒にやろうということで映画の監修を行うことになりました。」
続いて、大鳥地域を訪れたOne Earth Guardiansの学生4名とのパネルディスカッションが行われました。
各々が現地訪問で感じたことを率直に振り返ります。
(飯島監督、田口さん除く)左から
・中川 俊明 /東京大学農学部 学部4年・One Earth Guardians 6期生
・津旨 まい /東京大学大学院農学生命科学研究科 修士課程2年・One Earth Guardians 4期生
・志賀 智寛 /東京大学大学院農学生命科学研究科 修士課程2年・One Earth Guardians 5期生
・田中 美羽 /青山学院大学 学部2年・Good Life on Earthプログラム 2期生
(敬称略)
田中さんにより、写真を用いた現地訪問の様子が紹介されます。
田中さん「大鳥で地域の方々や自然と触れ合っていると、自分が繋がっている範囲がすごく広くなったように感じました。
大鳥の人々は歴史を大切にされていて、『昔』・『未来』という縦の軸と、共同体の人々という横の軸を持ち、どちらにも属しているという感覚があり、それがすごく安心感があって。自分は一人で生きているわけじゃないんだ、と実感することができました。」
中川さん「実際に熊を解体していただくというのは、普段スーパーで肉を買って焼いて食べるだけでは得られない貴重な経験だと感じました。
熊撃ちの様子を見学させていただいとき、木の上に登っていた熊が撃たれて落ちる瞬間を目撃したんです。それは、これまで生き物だったものが、食べ物になる瞬間でした。そこで、私たちはこれまで生きていたものを食べ物としていただいているんだという実感を持てた気がします。」
津旨さん「私は大鳥を訪れる前、都内での日常に不安を感じていました。自分の使っているものがどれだけ環境に負荷を与えているのか、どこで、誰が作っているのか、何で作られているのかなど具体的なことが分からなくて。ずっと自分が消費の場に生きているなと感じ、そういった自分の生活基盤がすごく不安定なものに感じていました。
しかし大鳥に行くと、山で山菜を採ったり、熊を狩ったりと、自分の生活基盤がとても近いところにあることに安心感を覚えたんです。」
田口さん「こういった田舎の地域は環境負荷が少なく、優しい生活を営んでいるイメージを持つかもしれません。もちろんそういった生活を心がけている人も多くいますが、残念ながら山にゴミを不法投棄する人だっています。
ただ、私たちは山や田んぼなどの生活の場を、地域の人びとと共有しているという意識があるんですね。だから自治体では毎年春に『ゴミゼロ運動』をやっていたり、共有の場所を皆で管理しようというシステムがあるんです。
高齢化により年々共同の管理が難しくなっており、山道が荒れてしまっている現実もあるので、ずいぶん過渡期には来ているのかなと思いますが。ただ、生活の基盤の範囲が都会よりも広いとは感じます。」
志賀さん「僕は、山に入っていくという行為は、自然と対話することなんじゃないかと思ったんです。
実際に山に入ってみると、自分がすごくちっぽけな存在に感じました。熊撃ちの際も、山にいる熊がすごく小さく見えて。それぐらい山は大きいんだなと。
大鳥の人びとも、山に入り自然と対話をしたり、熊と向き合ったりするなかで、『やっぱり山には敵わない』という感覚を持ち続けるのではないでしょうか。そして、大鳥という集落でどう生きていくのか、というバランス感覚は、山に入るからこそ得られるものなのだと感じました。」
田中さんが大鳥の地を想って作った詩「大鳥」
パート2|特別対談「映画と自然科学のコラボレーションの可能性」
後半では、YOIHI PROJECT代表で美術監督の原田満生さん、One Earth Guardians育成プログラム発起人の五十嵐 圭日子さんによる挨拶が行われました。
原田 満生 /YOIHI PROJECT代表・美術監督
1965年、福岡県出身。 美術スタッフとして阪本順治監督などの作品に多数参加したのち、セットデザイナーを経て、『愚か者 傷だらけの天使』(98)で美術監督を務める。 00年、『顔』『ざわざわ下北沢』で毎日映画コンクール美術賞、藤本賞特別賞を受賞。以後も、『舟を編む』(13)、『日日是好日』(18)で毎日映画コンクール美術賞を受賞。 企画・プロデューサーとして本作を立ち上げ、美術も手掛けている。【その他の参加作】『亡国のイージス』(05)、『テルマエ・ロマエ』(12)、『許されざる者』(13)、『散り椿』(18)、『空母いぶき』(19)、『弟とアンドロイドと僕』(22)
「YOIHI PROJECTでは、環境問題を作品、映画に盛り込んで映画を作って 発信していく活動です。去年(2023年)、第1弾の『せかいのおきく』という映画を作り、ありがたいことにさまざまな賞(※)をいただくことができました。
そういったこともあり、今回の第2弾『プロミスト・ランド』の製作が実現しました。バトンを繋ぐような気持ちで、さらに環境問題というテーマを多くの人びとに伝えていけたらと思っています。」
※「第97回キネマ旬報ベスト・テン」第1位(日本映画作品賞)、脚本賞受賞。第78回毎日映画コンクールでは日本映画大賞、脚本賞、録音賞の最多3冠を受賞。
五十嵐 圭日子 /東京大学大学院農学生命科学研究科 教授・One Earth Guardians育成プログラム発起人・東京大学産学協創推進室 副本部長
1999年東京大学 大学院農学生命科学研究科 博士課程修了。2016年からはフィンランドでも教職に就き、生物圏に負荷をかけない経済活動である「バイオエコノミー」の実現を目指すとともに、東京大学に One Earth Guardians(地球医)育成プログラムを立ち上げる。米科学誌「サイエンス」を含む200を超える論文や著書、日本学術振興会賞、市村学術賞など数々の受賞の他に、酵素研究に関するギネス世界記録も保持する。
「YOIHI PROJECTの立ち上げ当初は、伝えたい想いはあるものの、それをどう伝えれば良いのか分からない状態でした。
そんななかで原田さんと出会い、お話しをさせていただくなかで、『映画を通じてOne Earth Guardiansの活動を伝えていくのはどうか』という提案をいただきました。
そして制作した第1弾『せかいのおきく』がとても素晴らしい映画になって。今回、こうして第2弾に繋げられたことを大変嬉しく思います。」
最後は笑顔で記念撮影!
交流会
最後に参加者と登壇者の交流の場が設けられました。
現地の食や酒が用意され、大鳥の自然を味わうことができました。
話に花が咲き、大盛り上がりのなかイベントは終了となりました。
まとめ
『プロミスト・ランド』の映像や学生たちの体験談を通じ、大鳥地域に伝承されるマタギ文化の暮らしを知ることができました。都会の暮らしのなかで見失いがちな、自然のもたらす恵みと厳しさと共に生きる暮らしの一端を感じることができた貴重な機会でした。
映画『プロミスト・ランド』は、2024年6月29日(土) よりユーロスペースほか全国順次公開!今後もYOIHI PROJECTの取り組みにも注目です。