カフェでもレストランでもコンビニでも、ドリンクを取り扱うところであれば、どんなところでもよく目にする“コーヒー”。『毎朝コーヒーを飲まなきゃ一日が始まらない!』というように、コーヒーがすっかり日常の一部になっている人も少なくないのではないでしょうか。そんな私たちにとってなじみ深いドリンクのコーヒーですが、気候変動と密接な関係を持っていることをご存知でしょうか。
コーヒーの生産が気候変動を加速させており、そのためにコーヒーの生産が圧迫されており、2050年には今まで通りの美味しいコーヒーが飲めなくなってしまうかもしれないという『コーヒー2050年問題』も叫ばれています。
コーヒーの生産が気候変動を加速させる
コーヒーの生産は環境問題を引き起こす一因にもなっています。コーヒーの栽培場所となるのは熱帯林。従来であれば、低木のコーヒーは高い樹木の下で育てる木陰栽培が行われていました。木陰栽培では単位面積当たりの収穫力が少なく、機械も使用できず、手間がかかって面倒です。そこで多くのコーヒー栽培地域では、生産性を上げるため、森林を伐採し、コーヒーだけの畑に作り変えてしまいます。しかも、単一栽培では害虫や菌の影響をうけやすいため、化学薬品も大量に使う必要があり、土壌や水質の汚染も同時に生じてしまいます。すると、また新しいコーヒー畑を設ける必要ができ、新たな土地で森林伐採が行われてしまいます。こうして森林伐採が繰り返されると、熱帯林の生態系の破壊にも繋がることはいうまでもありません。
コーヒーの生産が森林伐採、土壌・水質汚染、生態系破壊など様々な環境問題を引き起こす重大なファクターになっているのです。
加えて、たった一杯のコーヒーを作るために、37ガロン(約148L)の水が必要であったり、1kgのコーヒーを作ると、17kgのCO2排出量が伴うこともご存じでしょうか?
こうしたコーヒー生産が与える環境への影響を踏まえると、コーヒーは“6番目に環境負荷が大きい飲食品”として今問題視されています。
(参考:「はじめてみよう!サステイナブルコーヒーのすすめ」サステナブルジャーニー|大和ハウス工業)
コーヒー2050年問題
コーヒーの生産は環境の変化に弱いため、地球温暖化によって様々な影響をうけています。地球温暖化によって温度・湿度の上昇や降雨量の減少などが伴い、従来の生育環境とは異なる環境下になることで品質の低下が招かれます。また、気温・湿度が上昇すると、さび病という病気や虫害が発生しやすくなり、収穫量減少・品質低下を招きます。生産難、そして経済的苦境が深刻化すると、コーヒー生産者の減少にも繋がりうるでしょう。
また、今後地球温暖化、それに伴う気温・湿度の上昇、降雨量の減少などの気候変動の進行が止まらなければ、コーヒー栽培適地も大幅に減少してしまう恐れがあります。現在コーヒー栽培地として主流のブラジル、中南米、アフリカなどどの地域でもこのような現象は起こることが予測されており、このままであれば、2050年にはアラビカ種のコーヒー栽培適地は現在の50%にまで減少すると言われています。2050年には今まで通りの価格と味のコーヒーを楽しむことはできなくなってしまうかもしれません。そんな危機感のもと、この『コーヒー2050年問題』は世界中で深刻な問題として考えられています。
コーヒー豆を使わなくても作れる美味しいコーヒーMinus COFFEE
そこで、環境に負荷をかけうるコンディションで生産されているコーヒーの代替となる、もっとサステナブルなコーヒーの開発に取り組むアメリカ発のベンチャー企業を紹介します。コーヒー豆を使っていないが、まるでコーヒーのような風味を楽しめるビーンレスコーヒー『Minus BEANLESS COLD BREW』を開発・販売する『Minus COFFEE』(COFFEE MINUS THE BEANSの意)が2020年にアメリカで創設されました。
同社のコーヒー作りでは、従来であればコーヒーに使わない植物・果実の根や種など、生産に必要な水の使用量・CO2排出量が少ないものが選ばれ、環境負荷の大きいコーヒー豆は使いません。
まず初めに豆の代替となる様々なアップサイクルされた食材を焙煎します。チコリやイナゴ豆を煎り上げ、甘みを、レンズ豆やトーストしたひまわりの種からココアやナッツのような風味を引き出します。ブドウの種からはバターたっぷりのパイ生地のような重厚なうまみを、デーツの種からはフルーティーな香りとアクセントを、焦がしたサトウキビ麦芽からは柑橘系の酸味を引き出します。
こうして焙煎された“コーヒー豆”を発酵エキスで抽出し、やわらかくカフェインの効いたコールドブリューコーヒーが出来上がります。世界中の多くのコーヒー農家が発酵プロセスを変えることで様々な風味のコーヒーを生み出していますが、同社も膨大な時間をコーヒーの発酵の研究に費やし、独自の発酵エキス・発酵プロセスを開発し、コーヒー豆を使わなくともまるでコーヒーのような風味がするビーンレスコーヒーの開発を可能にしました。
また、同社はコーヒー農家の経済的サポートにも取り組んでいます。そもそも、気候変動によるコーヒー生産への影響を最もうけているのはコーヒー農家の人たちです。世界中のほとんどのコーヒーが零細農家によって生産されており、その8割の農家は貧困に苦しんでいます。アンフェアで長く非効率なバリューチェーンのために、コーヒー農家は最終的に一杯のコーヒーのうち、1〜2%分の利益しか得られていません。
そこで、同社は新しい“コーヒー”をつくると同時に、そのコーヒー農家の人たちもその革新に巻き込みました。まず初めに農家さんと連携し、アグロフォレストリーシステム(※)への移行を手助けし、『Minus COFFEE』を作るのに必要な代替食材の生産を依頼しました。このような新しいシステムの下、環境変化に強く、需要がある食品を生産することで、彼らはより高い生産物の単位量当たりの利益を得られるようになりました。
まさにMinus COFFEE社は地球にもひとにもやさしいサステナブルなコーヒーの開発・販売に取り組んでいます。
※アグロフォレストリーシステム
アグロフォレストリーは、農業(Agriculture)と林業(Forestry)を組み合わせた造語。樹木を植え、森を管理しながら、そのあいだの土地で農作物を栽培したり、家畜を飼ったりすることを指し、森を伐採しないまま農業を行うことが特徴だ。主に熱帯地方で盛んで、「森林農業」とも呼ばれる。(参考:「アグロフォレストリーとは・意味」IDEAS FOR GOOD)
実際にMinus COFFEEを飲んでみた
Future Food Insituteが主催するフードテックイベント(2023年3月9日開催)に参加した際に、お隣のブースでMinus COFFEEの創業者の方とお話し、実際にMinus COFFEEの試飲をさせていただきました。正直、コーヒー豆を使っていないと言われなければ全くわからないくらいおいしい“コーヒー”でした!また、コーヒーの独特な酸味・苦みもかなり抑えられているため、コーヒーが苦手な人でも堪能できるコーヒーではないかという印象です◎
今のところアメリカ国内でしか売られていませんが、国外進出も検討しているとのことです。地球にもひとにもやさしいビーンレスコーヒー『Minus COFFEE』を日本でも手にできる日が来るといいですね。
文・構成/SD学生編集部(M.M)