従来の商品と比べて、どれだけCO2を削減したかを数字で知らせるマークが登場しました。その名も「デカボスコア」。
「カロリーオフ」が体重を気にする女性や、メタボ体型の改善をめざす中高年層に支持されたように、これからは「カーボン〇%オフ」の表示が、生活者にとって新しい価値をもたらすことになりそうです。
博報堂と三井物産がコラボしたプロジェクト
「デカボスコア」を考案したのは、脱炭素社会の実現をめざすプラットフォーム「Earth hacks(アースハックス)」。「Earth hacks」 は一人ひとりの脱炭素のアクションを促すために、商品情報の提供や脱炭素関連商品・サービスや事業の開発を目指す取り組みとして、2022年1月、博報堂の新規事業開発組織「ミライの事業室」と三井物産が共同で開始したプロジェクトです。
すでにEarth hacksのInstagramやWebサイトでは、CO2e(CO2 相当量に換算した値)を抑えた商品を紹介したり、従来の素材や手法で作られた製品と比較した場合の削減量がわかる仕組みを採り入れたりしていましたが、今回新たに「CO2e削減率」を「デカボスコア」として算出し、企業・団体向けに提供するサービスを開始しました。
飲料、自動車、航空など各種大手企業も参加
現在、さまざまな業種の大手企業が続々と「デカボスコア」表示に参加しています。
UCCホールディングスでは、珈琲の製造過程で工場に太陽光発電を導入したり、抽出した後のコーヒーかすを熱源に使ったりすることで「8%オフ」を実現して表示しています。
トヨタ自動車も製造過程で生まれた廃材の利用などで、「66%オフ」を表示。
日本航空では、燃費にすぐれたエアバスの新型機「A350型機」の導入によって国内線で「15%オフ」を表示しています。
個々の商品やサービスにおけるCO2削減率は、三井物産が提携するスウェーデンのインパクトテック企業Doconomy社のCO2e排出量可視化ツール「The 2030 Calculator」やその他CO2e排出量可視化ツールを活用して算出しているとのこと。
ちなみに「デカボ」とは、脱炭素を意味する「デカーボナイゼーション(Decarbonization)」の略。
食品ラベルの表示は食品産業を変えたと言われていますが、デカボスコアは一業種だけではなく、全産業の価値基準を変えるきっかけになると予想されています。
脱炭素を全面に出すのは逆効果
とはいえ現在、一般の人の脱炭素に対する関心はそれほど高いとは言えません。脱炭素社会の実現は、世界共通の目標ではあるものの、日本では世界に比べてまだまだ意識が低いと言われます。
Z世代と言われる若者たちは脱炭素への関心が高い一方、年代が上がるにつれて低くなる傾向があり、世代間にギャップがあることがわかっています。
博報堂の調査によればそのZ世代も、脱炭素やCO2削減を前面に打ち出したものには懐疑的な態度を示す傾向があることがわかっているとのこと。そこで博報堂では、自分が素敵だと感じたり気に入ったものが、結果的に脱炭素に貢献している商品だった、という自然な流れが必要だと言います。
脱炭素の前に、機能、デザイン、価格といった基本的な製品の魅力が問われることに変わりはないようです。
たしかに食品も、たとえカロリーオフとはいえおいしくなければ、人は選ばれません。デカボスコアも同じで、そもそも製品やサービスに魅力がなければ、購入の対象にはなりません。そうしたことから脱炭素は最優先基準というわけではなく、いくつかの選択肢の中で迷ったときなどの決め手になる、という感覚に過ぎないかもしれません。
生活者も自分の消費行動で脱炭素に貢献したい
しかし長い目で見れば、ブランドへの信頼感を強める効果は期待できそうです。無名のブランドであっても、脱炭素の取り組み方次第で、有名ブランドと張り合える競争力を持てる可能性もあります。
かつて欧米の伝統的な自動車メーカーよりも1ランク下のブランドと見られていた日本のトヨタ自動車は、世界初のハイブリッド車「プリウス」を世に出したことで、一流ブランドの仲間入りを果たしました。
ハリウッドスターたちの多くが、ポルシェやフェラーリ、ロールス・ロイスなどの豪華なクルマから、プリウスに乗り換えていったことが話題になりました。これは明らかに、「脱炭素」のコンセプトによる商品が、それまでの価値基準を変えた事例と言えます。
今は誰もが、自分の消費が地球にどのような影響を及ぼすかという意識を持つようになりました。そうした中で、デカボスコアは消費者の選択基準に影響をもたらすことになりそうです。
企業には自社製品の脱炭素の情報開示が求められる
これまでは生活者が手に入れられる脱炭素の商品データは限られていました。しかし「デカボスコア」が普及することで、それぞれの商品がもつ脱炭素量の表示があって当たり前の社会になっていくことになりそうです。
これから企業には自社商品の素材や輸送手段、製造過程など、バリューチェーン全体における脱炭素の工夫や改善はもちろんのこと、その情報をいかにわかりやすく“伝える”かが問われることになります。