展示会やポップアップイベントなど、数日間から数週間のためだけに作られる仮設空間。華やかな空間が解体された後には、大量の木材、プラスチック、そして混合素材の廃棄物が残されます。この「イベント産業の大量廃棄」という構造的な問題に対し、バルセロナを拠点として革新的なアプローチで挑むクリエイティブスタジオがあります。「Naifactorylab」です。
彼らは、「オリーブの種」など、スペイン国内で豊富に手に入る農業廃棄物を活用し、熱を加えるだけで何度でも再生可能なバイオ素材を独自開発しました。特別な機械を必要とせず、まるで「料理をする」ように素材を精製し、自然界に完全に還るサーキュラーエコノミーを実現しています。
今回、バルセロナにある彼らのスタジオを直接訪問し、開発の経緯から、有機廃棄物が持つビジネスの可能性、そしてスペインにおけるサステナビリティの現状について、CEO Josean Vilarさんに話を伺いました。
Naifactorylab CEO:Josean Vilarさん
建築家。イベント用の仮設建築や空間デザインを数多く手がける中で、業界の使い捨て文化に強い問題意識を抱く。2019年、デザイナーのSilvana Catazine氏と共に、有機廃棄物を活用したバイオ素材の研究を開始。科学者ではなく「建築家とデザイナー」というクリエイターの視点から、素材の機能性と美しさを両立させる独自のバイオコンポジット(生体複合材料)を開発している。

仮設建築の「大量廃棄」への違和感
Naifactorylabがバイオ素材の研究・開発を始めたきっかけは、イベント業界の「使い捨て文化」に対する強い危機感だったと言います。
「きっかけは2019年に遡ります。当時、私たちは主にイベント向けの仮設建築や空間デザインのプロジェクトを手がけていました。そこで常に直面していたのが、イベント終了後に発生する莫大な量の廃棄物です。数日間のために空間を作り上げ、終わればすべてを解体して捨てる。この直線的な消費モデルに強い危機感を抱いていました。
木材やコルク以外に、持続可能な代替素材を市場で探したものの、求める要件を満たすものは見つからなかったそうです。そんな時、バルセロナのファブラボ(市民工房)で「バイオ素材」という概念に出会い、身の回りにある有機廃棄物を素材として活用する研究がスタートしました。
木材のような「Reolivar Earth」と、プラスチックのような「Reolivar Air」。用途で使い分ける2つの新素材
数ある有機廃棄物の中から主力素材として選ばれたのは、スペインならではの地域資源でした。
「共同創業者のSilvanaが目をつけたのが『オリーブの種』でした。スペインは世界最大のオリーブ生産国であり、製造過程で大量の種が廃棄されます。この豊富にある地域資源を活用しない手はありませんでした。」
科学者ではない彼らは、文字通りゼロからの独学で試行錯誤を繰り返し、オリーブの種をベースに寒天や動物性ゼラチン、でんぷんなどの「バイオバインダー(接着剤)」を配合する独自のバイオコンポジット(生体複合材料)「Reolivar®(レオリバー)」を開発しました。現在、彼らのスタジオでは同じオリーブの種を起源としながらも、用途に合わせて全く異なる性質を持つ2種類の素材を展開しています。
1つ目は、「Reolivar Earth(アース)」。
加工されたオリーブの種、バイオポリマー、その他の天然添加物で作られる、木材のような温かみと陶器のような質感を持つ硬質な素材です。塊状の素材を金型に流し込むことで、ロスなく複雑な形状を成形可能。乾燥後はCNC、レーザー、鋸、旋盤などの既存工具で加工できるため、木材と同じ感覚で扱えます。
また、加工時に出る「削りカス」も再び集めて再利用できるのが特徴です。

2つ目の素材は、軽やかで光を透かす性質を持つ「Reolivar Air(レオリバー・エア)」です。
重厚な「Earth」とは対照的に、こちらはガラスやプラスチックのような透明感のある質感が最大の特徴と言えます。バイオバインダーの配合を微調整することで、ガラスのように硬い状態からプラスチックのような柔軟な状態まで自在にコントロールできるほか、天然染料や添加剤を加えることで、色彩や透明度、さらには表面のざらつきといった細かな表情まで作り込むことが可能です。
その加工プロセスも非常にクリエイティブで、最初は液状の特性を活かして複雑な型に流し込み、自由な造形を試みることができます。さらに乾燥して固まった後は、ナイフで手作業によるカッティングを施したり、レーザーカッターで精密な彫刻を刻んだりすることも可能です。

「着色料に関しても、人工的な化学染料は一切使用していません。食用の着色料のほか、お茶の葉、コーヒーの出し殻、炭、ターメリック、ビーツなどの天然色素を混ぜ込むことで、多様なカラーバリエーションを生み出しています。」
すべてが自然由来の成分で構成されているため、仮に埋め立て地に捨てられたとしても、バクテリアや微生物がそれを分解し、自然環境に残ることはありません。
「水と熱」だけでリセット。キッチンで完結する循環システム
さらに驚くべきは、その再利用システムの独自性です。
「実は、これが私たちの開発した素材の最大の強みです。このバイオプラスチック(Reolivar)は、『熱を加えて再溶解するだけで再利用できる』という特性を持っています。
一般的なプラスチックのリサイクルには、大規模な破砕機や高温で溶かすための特殊な産業機械が必要です。しかし、私たちの素材は違います。大げさな設備は不要で、いわば『キッチン』があれば十分なのです。鍋に水と素材を入れて火にかけるだけで、簡単に元の原料に戻すことができます。」

具体的な活用例として、イベント用の案内板やネームプレートが挙げられます。プレート状にしたバイオ素材にレーザーで文字を刻印して使用するのですが、イベント終了後は、お湯をかけて拭き取るだけで表面の刻印をきれいに消去できます。そのため、同じプレートに再び新しい情報を刻印して、別のイベントでそのまま使い回すことが可能です。

さらに、サイズや形状そのものを変えたい場合は、熱を加えて完全にペースト状に溶かし、新たな型に流し込むことで、全く別のプロダクトに作り替えることもできます。廃棄物を一切出さず、用途に合わせて自在に形を変え続ける「完全なサーキュラー型の生産モデル」を実現しています。
ガウディを彷彿とさせる、自然の造形を模したデザイン
スタジオ内に展示されている数々のプロトタイプや作品は、どれも有機的で、自然の造形を模倣したかのような美しい曲線を描いていました。その様子は、バルセロナを代表する建築家・ガウディの作品を彷彿とさせます。その印象を伝えると、Joseanさんは笑顔で答えてくれました。

「そう感じますか? 確かにそうかもしれませんね。もしガウディが現代に生きていたら、きっとこのようなバイオ素材を求めていただろうと確信しています。」
機能性や完全循環といったシステム面だけでなく、素材のルーツである「自然」を表現するデザインが、彼らの強みの一つとなっています。
「地産地消」のものづくり:企業の廃棄物を専用素材へ
スタジオには、オリーブの種以外にも、ニンニクの皮やオレンジの皮など、様々な有機廃棄物のサンプルが並んでいました。
「基本的に『有機物』であれば、何でも素材に変換できる可能性があります。
現在私たちは、自社プロジェクトだけでなく、他社からの依頼を受けて専用の素材開発も行っています。」

「重要なのは、『自分たちの周囲にどんな資源(廃棄物)があるかをマッピングする』という視点です。スペインに住んでいるならオリーブの種が最適解の一つですが、もしあなたが日本でこのプロジェクトを行うなら、オリーブの種は使いませんよね。日本であれば緑茶の茶葉や、お米の残渣かもしれません。
その土地で発生する廃棄物を利用し、その土地で消費する。これこそが、輸送時の環境負荷(カーボンフットプリント)も削減できる合理的なアプローチなのです。」
サステナビリティを実装するエコシステムの構築と今後の展望
Naifactorylabの取り組みは、自社内にとどまらず、地域全体を巻き込んだエコシステムの構築へと広がっています。
「バルセロナにあるデザインスクール『ELISAVA(エリサヴァ)』の修士課程の学生たちと協力プロジェクトを行っています。リテールデザインを学ぶ学生たちに、私たちのスタジオのウィンドウディスプレイをデザインしてもらいました。」

彼らが目指しているのは、単に素材を開発・販売することではなく、有機廃棄物とバイオ素材を使って新しい価値を生み出す「開発者のエコシステム」を作ることです。
「同じ方向を向き、既存の環境負荷の高い素材を代替しようと試行錯誤する仲間を増やすことが、社会全体のシフトに繋がると信じています。普段、私たちがスーパーなどで購入する製品のパッケージや素材の多くは、生分解されないか、分解されるまでに何千年もかかるものです。まだまだやるべき仕事は山積みですが、私たちは確実に行動を起こしています。」
スペインにおけるサステナビリティの等身大のリアル
環境先進国というイメージのあるヨーロッパですが、実際のスペインの人々の意識はどうなのでしょうか。現地でのサステナビリティに対する関心度について、率直な疑問をJoseanさんにぶつけてみました。
「世代によっては、まだ環境問題への意識が薄い層も確かに存在します。しかし、少なくとも今のスペインの多くの人々は、『地球規模で何かが起きていて、私たちのこれまでの在り方を変えなければならない』と気づき始めています。実際、私たちのように新しい素材を開発したり、様々なイニシアチブを起こそうとしている人がたくさんいます。サステナビリティは、スペインでも今まさに真剣に取り組まれているトピックです。」
人々の意識が変わりつつある中、街のインフラにも変化が見られます。バルセロナの街を歩くと、道沿いに電気自動車(EV)の充電器が設置されていたり、自転車レーンや公共交通機関が充実していたりと、日常的に車に頼らなくても生活できる都市整備が進んでいます。
さらに、スペインならではの強みが「食」の環境だとJoseanさんは語ります。
「スペインは食料の生産国でもあります。スーパーに行けばどこから来たか分からないものもありますが、地元の小さなお店に行けば、近隣で採れた野菜やフルーツなどの『ローカルフード』を選ぶことができます。寒冷な気候で多くを輸入に頼らざるを得ない国とは違い、消費者がその気になれば『地産地消』を簡単に選択できる環境が整っているのは、非常に恵まれていますね。」
取材を終えて
今回、Naifactorylabの取り組みを取材して、最も強く心に残ったメッセージがあります。
それは、「身近な廃棄物を『地域の資源』として価値を見出し、新たな素材を作る。そして、簡単に再生できるサーキュラーなプロダクトデザインに落とし込む」という、非常にシンプルで力強いアプローチです。
「日本ならオリーブの種ではなく、その土地の資源を使うべきだ」というJoseanさんの言葉の通り、日本にもお米の残渣や茶葉など、独自の未利用資源が数多く眠っています。遠くから素材を輸入するのではなく、身近な「廃棄物」を、美しく循環するプロダクトへと生まれ変わらせる。
バルセロナで実践されているこのしなやかなアイデアが、日本のこれからのサーキュラーエコノミーや、新しいものづくりのヒントになれば幸いです。

取材・文・写真/SD学生編集部(M.M)







