現在世界人口は約80億人にもおよび、2050年には90億人を上回ると予測されています。そして同時に増え続けているのが飢餓人口です。国連報告書によると、2021年時点で最大8億2800万人もの人が飢餓に苦しんでいるとのことです。これだけ多くの人が飢餓に苦しんでいるにも関わらず、現在、世界では沢山の食料が廃棄されているという不合理な問題が生じています。
(参照:World Population Prospects 2022: Summary of Results, United Nations)
(参照:The State of Food Security and Nutrition in the World (SOFI) Report – 2022, WFP p.39)
世界で生産されているヒト用の食料は約40億トンですが、その約1/3の13億トンがロス、または廃棄されています。もし、この13億トンが無駄にならず、飢餓に苦しむ人々に分け与えられていたらどれだけの人を救えるでしょうか。そして大量に食品をロスしているのは日本を含む先進国です。例えば、日本の食品ロスは約600万トン/年であり、これは世界の食糧援助量約400万トン/年をはるかに上回る数字です。我々一人ひとりがこの問題に対し、取り組んでいかなければならない状態であることを痛感する衝撃的な数字ではないでしょうか。(参照:考えよう、飢餓と食品ロスのこと。2018/9/19, WFP日本_レポート)
そして、食品ロスは”生産・貯蔵・加工・食品製造・流通・小売・外食・家庭”など、数多くの過程で生じているため、”食品ロス”とひとまとめにせず、原因を的確に分析し、対策を打つ必要があります。
こうした現状を背景に、国内外では食品ロスを減らすべく、様々な取り組みが行われています。今回は、①生産②流通③食品製造・小売の過程における食品ロスを減らすために行われている、海外企業の取り組みを紹介していきます!
規格外のバナナ、見た目の悪いバナナも無駄にしない!オーストラリア発 Natural Evolution Foods
https://www.naturalevolutionfoods.com.au/
商業用のバナナはまだ緑色の時点で収穫され、黄色になった時点で店頭に並びますが、見た目や形、大きさが販売用の規格を満たさないバナナは流通チェーンに乗ることもなく、毎週農園の隅に何十トンも捨てられています。しかし、それら規格外の”グリーンバナナ”は味や栄養面においてはまったく問題がなく、むしろまだ熟していない”グリーンバナナ”は販売されている”黄色のバナナ”よりも優れた栄養価・効果を持つと言われています。このグリーンバナナの価値に注目し、あるオーストラリアのバナナ農家はNatural Evolution Foods社を設立し、廃棄されるはずだった”グリーンバナナ”を使って”グルテンフリーのバナナパウダー”や”抗菌性のある軟膏”の生産を始めました。
同社は収穫したグリーンバナナから、加熱することなく果肉部分だけを取り出し、バナナが熟してしまわないうちに粉末化するという、非常にエネルギー効率が高く栄養価を最大限に取り出せる独自の製法(栄養(nutrition)をロック(lock)する”NutroLock”製法)を生み出し、グルテンフリーのバナナパウダーを開発しました。このバナナパウダーはレジスタントスターチ(糖尿病や大腸がんの予防にも効果的な難消化性でんぷん)や、ビタミン、ミネラル、食物繊維を豊富に含んでおり、非常に高い健康促進効果を持つことで注目されています。
また、グリーンバナナには治癒効果もあることが発見されています。同様のNutrolock製法を用いて、高い治癒効果や豊富な抗酸化物質をもつ抗菌性バナナ軟膏も開発され、現在販売されています。
同社の創業者は「オーストラリアの大学や研究者らと協力し、グリーンバナナの有用性の研究を継続していくと同時に、持続可能な社会の達成に向けて取り組んでいきます。」とコメントしています。
捨てられるはずだったグリーンバナナの有効活用をきっかけに、人にも環境にもやさしいよりサステナブルな未来の実現が近づくのではないでしょうか。
野菜の鮮度を長く維持して生産者から消費者に届くまでのロスを減らす!インド発 GreenPod Labs
インドは野菜や果物の生産量が世界2位の国であるにも関わらず、その約40%が消費者の手に届くまでに鮮度が悪くなり、廃棄されています。この衝撃的な問題を解決するべく、GreenPod Labsは設立されました。同社は、樹皮や野菜の皮、果物の抽出物など植物由来の原料を化合し、青果物の鮮度を長持ちさせる小袋/サシェを開発しました。この小袋は、小袋のそばの果物や野菜の防御メカニズムを活性化して成熟速度を遅らせ、微生物の増殖を最小限に抑える手助けをします。
実際に、 この小袋”Green Pod”を野菜や果物のそばに置いておくだけで野菜や果物の鮮度が長持ちするという研究結果が報告されています。Green Podを使った場合と使わなかった場合では下図のような違いが見られました。Green Podを側に置いたマンゴーは10日後でも腐食することなく新鮮な状態が保たれています。
インドでは大量の食品が廃棄されている一方で、多くの人が栄養不足に苦しんでいます。この超人口大国で少しでも食品ロス問題を軽減させられたら、それは世界の環境問題・飢餓問題の解決へ大きな一歩となるでしょう。
まだ食べられるフードウェイストを動物用飼料に生まれ変わらせる!昆虫の力に注目したシンガポール発 Fly Farm
同社は食品飲料の製造・加工過程で生じる有機廃棄物やスーパーマーケットでのロスなどを餌として雑食性のアメリカミズアブを養殖し、養分を豊富に蓄えた幼虫を動物用飼料として販売しています。国内の大量の有機廃棄物の削減・活用をはじめとする、様々な課題解決に寄与することが期待されています。
FlyFarm Black Soldier Fly (BSF) Procucts(出所:FlyFarm Products)
食品ロスを餌に養殖されたアメリカミズアブは、生きた状態で爬虫類用の餌として売られたり、脱脂済の高品質なプロテインミールとして魚粉の代替品として売られたり、飼料中の昆虫油として販売されていたりと、多様な方法で商品化されています。
また、同社の商品は様々な点でサステナビリティ促進に貢献しています!例えば、昆虫の力を利用して廃棄物を処理すると、埋め立てや堆肥化に比べて温室効果ガスの生成が最大 90% 少なくなります。さらに、昆虫を飼料として地元で使用すると、大豆や魚粉を輸入する場合と比較して、CO2 排出量を最大 50% 削減できます。加えて、魚粉を使わないことで海産資源の枯渇の予防にも役立っています。
同社以外にもシンガポールには、アメリカミズアブを利用して昆虫性タンパク質の開発に取り組んでいる会社は数多くあり、人間用の食品向けに加工・製造することも検討されているとのことです。今後の展開に期待しましょう!
いま、私たちができること
今回は食品ロスを減らすべく、新たな技術開発を模索する海外企業の紹介をしましたが、この食品ロス問題解決には我々一人ひとりの意識変革も欠かせません。”食べ物を買いすぎない”、”買うときは手前どりをする”、”食材を適切な方法で保存する”、など一人一人の小さな取り組みが積み重なればそれは大きな効果をもたらします。”もったいない”を意識して毎日を過ごしてみませんか??
文・構成/SD学生編集部(M.M)