大豆ミートをはじめとする”代替肉”は大手ファストフードチェーン店のメニューで使用されたり、スーパーで販売されたり、と皆さんにとって少しずつ身近なものになって来ているのではないでしょうか?従来の”お肉”に比べ、環境負荷が小さく身体に良いものとして注目されている”代替肉”ですが、近年では、”代替魚”(※)の開発も進んでいるようです。ここ数年間で海外では多くのベンチャー企業が代替魚の開発・販売に乗り出しています。
今回は、「代替魚ビジネスの意義」をおさえた上で、代替魚の開発を進めている海外ベンチャー企業の紹介をしていきます。
※この記事では代替甲殻類などの代替水産物(代替シーフード)も”代替魚”として説明します。
代替魚が注目されているワケ
近年なぜ代替魚が注目されているのか、そのワケは大きく分けて3つあります。
① 人口増加に伴う水産資源消費量の増加
日本では人口減少、魚離れの傾向が進行していますが、世界では人口も水産物消費量も増加のトレンドが続いています。国連の報告によると、世界人口はまもなく80億人に達し、2050年には100億人近くになると予測されています。(参照:World Population Prospects 2022: Summary of Results)また、水産物消費量も、FAOの報告書によると、1960年代以降、年間約3%の伸びで増加しており、1人当たり年間消費量世界平均は20.5kg(2018年)から21.5kg(2030年)へと増加し続けることが予測されています。(参照:The State of World Fisheries and Aquaculture 2022)この人口増・水産資源の需要増に対し、どのように水産資源の供給を維持していくか、新たな手段が模索されています。
② 水産資源の過剰摂取
①の通り、水産資源の需要は世界的に増加しています。その需要の高まりを受け、世界では漁業従事者による乱獲が止まりません。FAOの評価によると、生物学的観点において、持続可能でない方法で過剰に漁獲利用されている海洋資源の割合は30%以上におよび(参照:The State of World Fisheries and Aquaculture 2022)、現在も増加の一途を辿っているとのことです。このまま非持続可能な方法での漁獲利用が続いてしまうと、世界中の水産物が枯渇してしまうかもしれません。
③ 養殖業による環境破壊
②で触れた乱獲による水産資源への影響だけでなく、養殖業による環境への悪影響も無視できないほど大きな問題となっています。たとえば、東南アジアで盛んなエビの養殖においても養殖地を確保するべく、干潟やマングローブの破壊が相次いでいます。また、養殖地から出る排水などがその周りの海洋や河川、土地を汚染する事例も多く見受けられます。限りある自然資源の保全のため、より持続可能な養殖業、もしくは新たな水産資源の供給方法が必要とされています。
これらの問題の解決策の一つとして、近年世界では新たな水産物”代替魚”の開発が進められています。それでは、具体的な企業や取り組みについて説明していきます!
寿司クオリティの植物性マグロを開発!Current Foods(米国)
2019年、「海を汚染することなく魚のベストな味や食感、栄養価を創りたい」という思いからアメリカで設立されたCurrent Foods社は植物性マグロの切り身を開発しました。植物性マグロの普及によって、乱獲によるクロマグロ絶滅の危機にもアプローチしていきたいとのこと。
同社の代替マグロは藻類や麩、大根、タケノコ、ジャガイモ、エンドウ豆などから作られています。鉄分やビタミンB12、オメガ3など豊富な栄養素が含まれており、プラスチックや水銀、高いコレステロールは含まれていません。従来の”マグロ”に含まれる栄養素をカバーした上で、近年懸念されているマイクロプラスチックや化学物質など健康を害する成分は含まれていない、非常に”ヘルシー”な”魚”であるとして注目を浴びています。
また、同社は同様に完全植物性のサーモンの切り身の開発も進めています。以前まではレストランやスーパーマーケット、ヴィ―ガン通信販売サイトからのみ購入可能でしたが、2022年2月より、D2Cで代替マグロと代替サーモンを購入できる予約登録の受付を自社ECサイトで開始しました。
CEOのJeck氏は、「ぜひこれらの商品をポキやセビーチェ、クルードなどの料理にしてご家庭で楽しんでほしい。その一口で私たちの海の豊かさが回復するだろう。」と述べています。
野菜からマグロ・サーモン・ウナギを作る!Mimic Seafood(スペイン)
スペインのMimic Seafood社はトマトをベースに代替マグロを開発するという、少しユニークな代替魚開発を行っています。スペインでは、世界的な水産資源の枯渇の危機や海洋汚染への懸念から、もしくはアレルギーなどの理由から、生の魚介類を食べない人が少なくないとのこと。この事実を知った同社の創業者は、スペインの主要農産物であるトマトなどの野菜を使った代替魚の開発を思いつき、Mimic Seafood社を設立しました。
同社の代表的な製品はトマト(tomato)で作られたマグロ(tuna)である”Tunato®”です。トマト、オリーブオイル、藻類エキス、醤油、ブレンドスパイスのたった5つの材料から作られており、マグロの食感を再現するため、トマトから水分の一部を蒸発させ、温度変化を利用し、構造を変化させているとのことです。また、この時に引き出される水分も、100%植物由来のイクラの開発に使われているとのことです!
Tunato®はB2B販売を主軸として2019年に販売を開始し、2022年年内にはヨーロッパ全域に販売を拡大すると報じられています。また、なすをベースとした代替ウナギもまた、同社によって販売されています。(下の写真)
野菜をベースに作られた、この色鮮やかな代替魚は今まさに注目を浴び、市場を急速に拡大している最中です。今後の展開に期待しましょう!
培養エビの開発に挑む!Shiok Meats(シンガポール)
Shiok Meatsは”培養エビ”の開発を目指し設立されたシンガポールのベンチャー企業です。甲殻類を1kg生産するためには約188kgのCO2が排出されることや、エビ1kgの漁獲に約20kgの混獲を伴うこと、エビの養殖地増加がマングローブ破壊につながること、などの従来のエビ生産における問題を解決するべく、この培養エビの開発を進めたとのことです。(参照:Shiok Meats社 FAQ)
培養エビは植物性由来代替魚とは異なるプロセスで作られています。どのように培養エビが作られているのか、その工程について以下で簡単に説明していきます。(下図参照)
- エビの幹細胞を採取する
- 1でとった細胞のサンプルを養分が豊富な培養液の中に入れる
- 培養液の中で幹細胞は大量に増殖すると同時に、幹細胞から筋細胞へと変化する(筋細胞が培養エビの”肉”となる)
このようなプロセスのもと培養エビは作られていきます。このプロセスは約4‐6週間で終わり、比較的短期間(従来のエビの養殖に比べると3倍のスピード)で製造ができます。
また、従来の培養”肉”生産でネックとなるのが培養液に含まれる血清成分の低価格化です。現段階では血清成分が非常に高価であるため、安価での培養”肉”の販売を見送っている企業も少なくありません。しかし、Shiok社は薬品会社”CulNet System”と提携し、血清成分を添加せずエビの細胞を大量培養する技術を開発しました。同社はこの技術を活用し、培養エビを安価で大規模に製造することの実現を目指しています。また、この技術を転用し、培養カニや培養ロブスターの開発も進めているとのことです。
私たちの食卓に培養エビシュウマイや培養ロブスターロール、そんな料理が広がる日もそう遠くないかもしれません。
人口・水産物需要の増加、水産物の枯渇の危機、養殖業振興による環境破壊など、様々な問題が生じている今、”代替魚”という一つの解決策が注目されています。これからも美味しい”お魚”を食べていくためにも、代替魚の開発は重要な取り組みといえるのではないでしょうか?
文・構成/SD学生編集部(M.M)